病理一口メモ (学生や研修医に役立つ病理の知識,日常の病理診断に役立つ知識などを提供)

・脳をホルマリン固定する場合,固定液は脳表面から深部に浸み込んでいくため,脳の中央部(大脳であれば基底核や白質,小脳であれば深部の顆粒層や白質)では固定不良に伴う死後変化がみられることが多い.夏の温度が高いとき,剖検までの死後時間が長いとき,感染などで高熱を伴って死亡した症例などではその変化が顕著で,とくにガス産生菌が繁殖した場合にはスイスチーズ様の外観を呈することがある.
・脳でみられるスイスチーズ様の変化は,脳をホルマリンで固定する前に嫌気性のガス産生菌が繁殖し,大小の境界明瞭な囊胞が形成されたもので,スイスチーズ脳(Swiss cheese brain)と呼ばれることもある(Hirano A: Color Atlas of Pathology of the Nervous System, P34).
・剖検時の脳の観察においては,このスイスチーズ様の変化を知っておく必要があるが,脳以外でも比較的大きな実質臓器でみられることがあり,肝臓でみられる場合(とくに法医学領域)には“泡沫肝”と呼ばれる.
・ガス産生菌の場合生体反応が少ないことがあり,それが生前のものか,死後のものかを判定するには画像を含む病歴を加味した検討も必要である.(by 清水道生)


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20.IgD発現

11.12.15

・Bリンパ球や形質細胞が産生分泌する免疫グロブリン(Ig)は重鎖と軽鎖から構成される.κ鎖とλ鎖の2通りしかない軽鎖の免疫染色がよく行われるのに対し,重鎖発現が病理診断上問題になることはあまりない.しかし実はIgD発現に注目するとなかなか興味深いものがある.
・生理学的にはリンパ節マントル層のB細胞はIgMとIgDを発現しており,抗原刺激を受けると胚中心でIgGやIgAを発現するようになる(クラススイッチ). DNAレベルでみるとIg重鎖遺伝子は上流からCμ,Cδ,Cγ,Cαといった定常域遺伝子が飛び飛びに並んでおり,IgG陽性細胞ではCμやCδが欠落してCγが上流側に再構成しており,IgA陽性細胞ではCμからCγが欠落してCαが上流側に再構成している.IgDが単独に発現されるためにはCμの欠落を伴うCδ再構成が必要になる.
・詳しい説明は省くが実はこれはまれな現象で,しかも細胞膜表面に発現される膜貫通型ではκ鎖が,細胞外に分泌される分泌型ではλ鎖がそれぞれ発現している.したがってほとんどのIgD陽性の形質細胞腫はλ鎖陽性で,臨床的には肝脾などの髄外浸潤傾向が強い.また,ホジキンリンパ腫結節性リンパ球優勢型で特異細胞がIgD陽性の例では発症年齢が若く,男性に多いなどの特徴がある.さらにリンパ形質細胞性リンパ腫のように原則としてIgDを発現しない腫瘍もあり,IgD発現が鍵となる場合がある.(by 茅野秀一)(文献)1. Chen K, et al. New insights into the enigma of immunoglobulin D. Immunological Reviews 2010; 237: 160-179. 2. Prakash S, et, al. IgD positive L&H cells identify a unique subset of nodular lymphocyte predominant Hodgkin lymphoma. Am J Surg Pathol 2006; 30: 585-592.


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・近年,病院業務における安全管理の重要性は年々高まっている.病理検査では,検体の取り違えなどの防止策が重要であるが,検体採取から診断報告書の作成まで各段階で検体取り違えのリスクが存在する.
・検体取り違え防止策としては,声出し確認や指さし確認なども大切であるが,当院では提出検体のビニール袋,パラフィンブロック作製用のカセット,スライドグラスにQRコードが印字される防止策がとられている.
・QRコードは1994年にデンソー株式会社(現デンソーウェーブ株式会社)により開発された2次元バーコードである.当初は自動車などの製造現場での利用を目的としていたが,現在では製造業,物流業,サービス業、さらに各種検体検査の管理などに広く利用されている.QRコードの最大の特徴はデータ容量が大きいことである.従来のバーコードの数十倍から数百倍の情報を扱うことができ,逆に同じデータ量であれば従来のバーコードの十分の一程度の面積で表すことが可能である.その他,360°あらゆる方向から読み取りが可能な点や,汚損・破損に強い点などが挙げられる.
・このように,バーコード1つとっても,システムの進化は目覚ましいものがあり,今後も更なる安全のための努力が求められる.(by 松嶋 惇)


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・子宮内膜癌は臨床的特徴や分子生物学的特徴に基づきI型とII型に分類されるが,近年,卵巣表層上皮性・間質性腫瘍もI型とII型に分類がなされている.子宮内膜癌と卵巣癌では分類の着眼点が異なっており,子宮内膜癌ではエストロゲン依存の有無に重点が置かれているのに対し,卵巣癌ではp53変異の有無が分類の鍵となっている.以下に卵巣癌のI型,II型の特徴を列挙する.
・I型:低異型漿液性腺癌,低異型類内膜腺癌,粘液性腺癌,明細胞腺癌,移行上皮癌が分類される.進行は遅く,病変は卵巣に限局していることが多い.各組織型で前駆病変や遺伝子変異は異なっているが,共通してp53の変異は稀である.低異型漿液性腺癌や粘液性腺癌には,良性嚢胞性病変,境界悪性腫瘍,癌と段階的に進行するものがある.低異型類内膜腺癌や明細胞腺癌の前駆病変には子宮内膜症が挙げられる.
・II型:日常診断で遭遇する頻度の高い高異型漿液性腺癌のほか,高異型類内膜腺癌や癌肉腫が分類される.80%以上の症例でp53変異が認められ,境界悪性病変を経ずにde novoに生じる.卵巣癌において予後不良なのはII型である.高異型漿液性腺癌では卵管,特に卵管采で上皮内癌がみつかることがあり,高異型漿液性腺癌の一部には卵管に発生した癌が卵巣に進展したものが含まれている可能性がある.(by 目黒史織)


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・非浸潤性乳管増殖性病変には, intraductal hyperplasia, atypical ductal hyperplasia, ductal carcinoma in situと呼ばれる良性から悪性の病変がみられ,婦人科領域のCINやVIN,前立腺のPIN,膵臓のPanINなどと同様, DINとして3段階にgradingされることがある.
・Low risk DIN:intraductal hyperplasia.細胞異型は目立たず,導管内壊死はほとんどみられない.浸潤癌のリスクは1.9%で,HMW CK陽性.
・Flat DIN1a:flat epithelial atypia.細胞異型は目立たず,導管内壊死はみられない.浸潤癌のリスクはあるとしてもごくわずかで,HMW CK陰性.
・DIN 1b (≤2mm):atypical intraductal hyperplasia.細胞異型は目立たず,導管内壊死はまれにみられることがある.浸潤癌のリスクは5.1-12%.
・DIN 1c (>2mm):ductal carcinoma in situ, grade 1.細胞異型は目立たず,導管内壊死はまれにみられることがある.浸潤癌のリスクは10-32%.
・DIN 2:ductal carcinoma in situ, grade 2.細胞異型は目立たないものから軽度ないし中等度まで.導管内壊死はみられることがある.浸潤癌のリスクは20-75%で,HMW CK陽性,E-cadherin陰性.
・DIN 3:ductal carcinoma in situ, grade 3.細胞異型,導管内壊死ともに高度.浸潤癌のリスクは20-75%.
・ちなみに,小葉内病変もlobular intraepithelial neoplasia: LIN 1-3とgradingされる.(by 永田耕治)


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